岡山地方裁判所 平成6年(行ウ)8号 判決
岡山県倉敷市安江四一一番地の三
原告
奥田聖一
右訴訟代理人弁護士
水谷賢
岡山県倉敷市幸町二丁目三七番
被告
倉敷税務署長 門世清是
右指定代理人
吉田尚弘
同
徳岡徹弥
同
大本哲
同
木村宏
同
鈴木朗
同
高地義勝
同
表田光陽
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対し平成四年一一月一〇日付でした平成二年分の所得税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をそれぞれ取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 処分
被告は原告に対し平成四年一一月一〇日付で別表一のとおり平成二年分の所得税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各処分」という)をした。
2 処分の違法
〈1〉 分離短期譲渡所得の不存在
本件各処分は原告に分離短期譲渡所得金四〇〇〇万円が発生したとするものであるが、そのような事実はない。
〈2〉 手続違背
被告は本件各処分に際し原告に国税通則法八四条所定の意見陳述の機会を与えなかった。
3 異議申立及び審査請求
原告は被告に対し平成四年一一月一二日異議申立をしたが、平成五年二月九日異議申立を棄却する旨の決定を受け、そこで国税不服審判所長に対し同年三月一〇日審査請求をしたが、同年一二月二一日審査請求を棄却する旨の裁決を受けた。
4 結論
よって、原告は被告に対し本件各処分の取消を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1、3は認め、同2は争う。
三 抗弁(本件各処分の適法性)
原告は次のとおり分離短期譲渡所得があったにもかかわらず、被告に対し平成二年分の所得税の確定申告書を提出しなかった。
原告は清水和好から平成二年一月三〇日同人の所有の別紙目録一の土地及び同目録二の建物(通称Rビル、以下右土地建物を「本件Rビル等」という)を代金一億一五〇〇万円で購入取得した上、株式会社東洋エステートに対し同年一月三一日代金一億五八〇〇万円で譲渡し、右譲渡のため仲介料三〇〇万円の費用を要し、いずれも決済した。
本件Rビル等の購入売渡による分離短期譲渡所得の金額は譲渡価額一億五八〇〇万円から取得価額一億一五〇〇万円及び譲渡費用三〇〇万円を控除した四〇〇〇万円となる。
これにより、原告の総所得金額、納付すべき税額、無申告加算税の額等は別表一(計算関係は別表二のとおり)のとおりとなる。
四 抗弁に対する認否
抗弁のうち、原告が被告に対し平成二年分の所得税の確定申告を提出しなかったことは認めるが、その余は争う。
原告は株式会社東洋エステートが清水和好から本件Rビル等を代金一億五五〇〇万円で買い受けるについて仲介をし、右会社から仲介料三〇〇万円の支払を受けたのみで、右ビル等を自ら購入売買した事実はなく、分離短期譲渡所得も発生していない。
第三証拠
本件記録中の証拠に関する目録のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 処分
請求原因1は当事者間に争いがない。
二 処分の適否
1 分離短期譲渡所得
抗弁のうち、原告が被告に対し平成二年分の所得税の確定申告書を提出しなかったことは、当事者間に争いがない。
甲第五号証、第一〇乃至第二六号証、乙第一乃至第一九号証、証人岩本健二の証言(一部)、原告本人尋問の結果(同)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
原告は有限会社三輪の代表取締役であったところ、コンドル商事有限会社の代表取締役である荒井武男の紹介で株式会社東洋エステートの代表取締役である岩本健二を知り、平成二年一月頃荒井武男の仲介により有限会社三輪所有の倉敷市内所在の通称パレブランビルを株式会社東洋エステートに売り渡す旨の契約が成立した。
右契約成立当時、原告は知人の清水和好がその所有の本件Rビル等及び別紙目録三の土地及び同目録四の建物(通称ライズビル、以下右土地建物を「本件ライズビル等」という)を売りに出していることを聞き知っていたことから、岩本健二に対し株式会社東洋エステートにおいて右各物件を購入しないかと持ちかけ、その売買の仲介を申し出た。
ところが、清水和好は原告に対し条件として本件Rビル等及び本件ライズビル等をあわせて二億三〇〇〇万円で売却するが、セットでなければ売却しない旨主張したのに対し、岩本健二は本件ライズビル等の収益性が低いとして本件Rビル等のみの購入ならば応じてもよい旨返答し、それぞれの意向は固く、交渉は暗礁に乗り上げた。
そこで、原告は自ら清水和好から本件Rビル等及び本件ライズビル等を購入した上で、株式会社東洋エステートに対して本件Rビル等のみを売却することによって事態の打開をしようと考え、清水に対し自らが二億三〇〇〇万円でセット購入する旨伝え、右会社に対しては本件Rビル等のみを一億五五〇〇万円で売り渡したい旨伝え、それぞれ了解を得た。なお、原告と右会社との本件Rビルの売買については荒井武男の関与はなかったところ、これを聞きつけた同人から、有限会社三輪乃至原告と株式会社東洋エステート乃至岩本健二とを紹介したのは自分であるとしてクレームがつき、結局原告が同人に対して仲介料名目で三〇〇万円を支払うことで合意したことから、この分を売買代金額に上乗せし、その額は最終的に一億五八〇〇万円となった。
平成二年度の固定資産税評価額は、本件Rビル等が土地建物合計二八六七万五三四七円、本件ライズビル等が同様四三五六万二八八九円であり、後者の方の評価が高く、清水和好自身も後者を高額と考えていたことから、同人は売買代金額の内訳について本件Rビル等を一億円、本件ライズビル等を一億三〇〇〇万円とする旨原告に提案したが、話合いの結果いずれも代金額を一億一五〇〇万円とすることに合意し、平成二年一月三〇日原告と清水は本件Rビル等及び本件ライズビル等についてそれぞれ清水を売主、原告を買主とし、売買代金を一億一五〇〇万円とし、手付金一六〇〇万円を同日支払い、同年二月一四日までに所有権移転登記手続及び残代金の決済をする旨の売買契約を締結し、その旨の契約書(物件毎に二通)を作成し、右各手付金の支払として、右契約当日の同年一月三〇日原告から清水に対し株式会社香川銀行倉敷支店発行の額面二三〇〇万円の自己宛小切手が交付され、同月三一日原告から清水が代表取締役である株式会社ライズコーポレーション宛に九〇〇万円の振込入金がなされた。なお、原告と清水との売買契約に関しては原告の銀行からの融資を受ける都合により別途本件Rビル等の売買代金を一億二〇〇〇万円と表示する契約書及び本件ライズビル等の売買代金を一億三〇〇〇万円と表示する契約書も作成された。
次いで、平成二年一月三一日原告と株式会社東洋エステートの代表取締役岩本健二は右会社事務所において本件Rビル等について原告を売主、右会社を買主とし、売買代金を一億五八〇〇万円とし、手付金一〇〇〇万円を同日支払い、同年二月一四日に所有権移転登記手続及び残代金の決済をする旨の売買契約を締結し、その旨の契約書を作成し、右契約当日の同年一月三一日岩本は原告に対し右手付金として一〇〇〇万円の現金を手渡した。なお、前記荒井武男からのクレームにより同人に仲介料名目で支払うこととなっていた三〇〇万円については、原告が荒井に対し同年二月六日頃支払い、同人は原告に対し原告が代表取締役である有限会社三輪宛の領収証を発行した。
原告は平成二年二月一三日の決済の準備のため株式会社トマト銀行倉敷支店に五〇〇万円を入金して自己名義の新規口座を設け、同日信用組合岡山商銀に対し五〇〇〇万円の融資申込をし、翌一四日右融資が実行されて、株式会社トマト銀行の原告の口座に五〇〇〇万円が振り込まれた。
平成二年二月一四日、原告、清水和好及び岩本健二が最終決済のため株式会社トマト銀行倉敷支店に集まり(なお、清水と岩本は初対面であった)、岩本は原告との売買契約の残代金一億四八〇〇万円を同銀行の原告の口座に振り込み、右口座から清水に対する原告と清水との間の売買契約の残代金の決済がなされた。更に同日本件Rビル等について中間省略登記の方法により同日売買を原因とする清水から株式会社東洋エステートに対する所有権移転登記が経由され、本件ライズビル等について同日売買を原因とする清水から原告に対する所有権移転登記がそれぞれ経由された。
原告の本件ライズビル等の購入はその直後のいわゆるバブル崩壊等により結果として原告に利益どころか、かえって損失をもたらしている。
以上のとおり認められる。
右認定事実によれば、原告は清水和好から平成二年一月三〇日同人の所有の本件Rビル等を代金一億一五〇〇万円で購入取得した上、株式会社東洋エステートに対し同年一月三一日代金一億五八〇〇万円で譲渡し、右譲渡のため仲介料三〇〇万円の費用を要し、いずれも決済したものというべきである。
ところで、原告は、抗弁に対する認否後段のとおり、株式会社東洋エステートが清水和好から本件Rビル等を代金一億五五〇〇万円で買い受けるについて仲介をしたことがあるのみで、これを自ら購入売買した事実はない旨主張し、証人岩本健二の証言及び原告本人尋問の結果中にはこれに沿い又は沿うかのような部分があるが、前記認定に供した他の証拠関係に照らし、採用の限りではない。むしろ、前記認定のとおり当初は清水と右会社の仲介をしようとしたものの条件が折り合わないことから自ら清水の物件をすべて買い受けてその一部を右会社に売却することにより事態を打開した経緯、作成した契約書の内容、決済状況、不動産の固定資産評価額等に鑑みると、原告は清水と右会社の双方の売買条件の齟齬を自ら購入する危険負担によって調整し、これにより本件Rビル等の売買に関していえば四〇〇〇万円の転売利益を得たものというべきであり、本件ライズビル等においてその後損失が生じたからといって、右利益の存在が左右されるものでもない。
したがって、原告の本件Rビル等の購入売渡による分離短期譲渡所得の金額は譲渡価額一億五八〇〇万円から取得価額一億一五〇〇万円及び譲渡費用三〇〇万円を控除した四〇〇〇万円となり、これにより、原告の総所得金額、納付すべき税額、無申告加算税の額等は別表一(計算関係は別表二のとおり)のとおりとなるものというべきである。
2 手続違背
原告は請求原因2〈2〉のとおり被告が本件各処分に際し原告に国税通則法八四条所定の意見陳述の機会を与えなかった旨主張するが、同法条は異議審査の決定手続上の規定であり、処分手続の際に意見陳述の機会を与える旨の法令上の規定はないから、本件各処分時に原告に意見陳述の機会を与えなかったとしても何等違法の問題は生じない。また、同法条は異議審査の際に異議申立人から意見陳述の申立があったときにその機会を与えなければならないものとしているところ、本件各処分に対する異議審査の際に異議申立人である原告が意見陳述を申し立てた形跡はないほか、乙第八、第九号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告からの異議審査に際し被告側担当官が原告に面会して異議申立書の欠落事項の補正を指導するなどしているなど、何等手続違背を疑わせるような事情は存在しない。
三 異議申立及び審査請求
請求原因3は当事者間に争いがない。
四 結論
以上によれば、原告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 矢延正平 裁判官 白井俊美 裁判官 藤原道子)
目録
一 倉敷市稲荷町一一八番四
宅地 一六四・一五平方メートル
二 倉敷市稲荷町一一八番地四
家屋番号 一一八番四
鉄骨造陸屋根四階建店舗
床面積 一階 八八・一二平方メートル
二階 八八・一二平方メートル
三階 八八・一二平方メートル
四階 八八・一二平方メートル
三 倉敷市老松町四丁目四一〇番七
宅地 一一七・九六平方メートル
四 倉敷市老松町四丁目四一〇番七
家屋番号 四一〇番七
鉄骨造陸屋根六階建店舗事務所居宅
床面積一階 五九・八一平方メートル
二階 六二・五一平方メートル
三階 六二・五一平方メートル
四階 六二・五一平方メートル
五階 六七・三一平方メートル
六階 四一・二五平方メートル
(別表一)
〈省略〉
別表二
〈省略〉
※ 〈12〉の計算方法(租税特別措置法32条)
イ 〈10〉×40%=16,000,000円
ロ {[(〈9〉+〈10〉-500,000)×50%-6,900,000]-〈11〉}×110%=19,017,350
イとロのいずれか多い方 イ<ロ